積分で不等式を活用するのはやや上級テクニックであるが、 それが求められる問題も少なくない。問題を解くとき、不等式の活用が必要か否か、意識しておいた方がよい。

問1

cn = (n+1) 1 0 xncosπx dx のとき、 cn+2 と cn の関係、 cncn+1 – c cn – c の極限の問題。

(1) では、被積分関数が xn ×三角関数 で、cn+2 と cn の比較なので、2回部分積分をすることが連想される。実際、その計算で 関係が導かれる。

(2) では、(1) の結果である cn+2 = – (n + 3)(n + 2) π2(1 + cn) を使うはずである。この式をよく見ると、少しおかしなことに気づくかどうかが ポイントになる。それは、nが大きくなると(n + 3)(n + 2)π2がどんどん大きくなり、 cn+2とcnの差がどんどん開き、cn が 収束しないのではと思われる(収束する場合は差が小さくなる)ことである。 このような状況が起こらないのは (1 + cn) → 0 のときで、よって cn → –1 だろうと予想がつく。あとはこれを証明する必要がある。 そこには少しテクニックが必要になる。式を変形すると、 cn = – π2 (n + 3)(n + 2)cn+2 – 1 となり、 n → ∞で、π2 (n + 3)(n + 2) → 0 なので、 cn が有界、すなわち ∃a ∀n. –a ≦ cn ≦ a が いえれば、cn → –1 がいえる。 この有界を示すのに積分での不等式を用いる。 その基本的用い方は、a ≦ x ≦ b で f(x) ≦ g(x) なら a b f(x) dx ≦ a b g(x) dx である。 この問題の具体的な用い方は、解法を参照してほしい。

(3) では、やはり (1)、(2) の結果を用いるはずである。 実際にそれらの結果を当てはめれば、自然に導かれる。


問2

β α sin x dx + π–α π–β sin x dx > (β–α)(sinα + sin(π–β)) を示し、
これを用いて  Σ7 k=1 sin 8 < 16 πを示す問題。

(1) では、丁寧に図を描いてみると、この不等式が何を意味しているのかがわかる。 即ち、区間 [α、β] で、y = sin x は端点を結ぶ直線より上にあり、 同様に、それと対称な位置にある区間 [π – β、π – α] で、y = sin x は端点を結ぶ直線より 上にることが示せればよい。この関係は y = sin x の凸性から導かれるもので、 その凸性を示すためには、凸性のルーチンな証明を行えばよい(2回微分して示す)。

(2) では、(1) の結果をどう使うかが問題になる。8個の和をとっているので、 8分割して (1) を使えば良いと想像できる。積分区間をつなげるところがポイントである。


問3

an = 1 0 (1 + x)–n–1ex2 dx、 bn = 1 0 (1 + x)–n xex2 dx のとき、
bn 1 0 (1 + x)–n dx を示し、bn、nan の極限を求める問題。

不等式は、被積分関数をよく見比べて、0 ≦ x ≦ 1 で xex2 ≦ 1 が 言えればよいことがわかる。 そして、bn の極限は、 不等式の右辺の積分を計算して極限をとると"挟み撃ち"で求められる(→ 0)。 nan の極限は、an と bn を 「部分積分を利用して結びつける」ことで求まる。この発想は 問1でも利用さており、要注意である。